ヒルビリーエレジー

ヒルビリーエレジー
この作品を鑑賞するのは2022年以来2回目になる。
今回再鑑賞したいと思ったのは、この作品がJ.B.ヴァンス現アメリカ副大統領の自伝の映画化であったから。
つい先ごろ、ゼレンスキーウクライナ大統領とトランプ大統領の会談が激しい口論で物別れに終わったが、トランプの隣で厳しい顔でゼレンスキーを詰めていたのが、J.B.ヴァンスその人である。
オハイオ州の貧乏白人の集住地区で育ったヴァンスの家庭環境は劣悪で、祖父母はアル中、シングルマザーの母親は麻薬中毒で、姉と共に虐待やネグレクトの最中で育った。周りを見渡せば、低賃金の単純労働者、生活保護受給者、犯罪者の吹き溜まりで、その中で地を這うように一歩一歩上を目指したヴァンスは高校卒業後、海兵隊に入団する。イラク派兵後、奨学金を得てオハイオ州立大からイェール大のロースクールに入学するのが政治の世界に進むきっかけとなる。そのロースクール時代の2016年に、教授に勧められて著した回想録が、この映画の原作となった。
名匠ロン・ハワードがメガホンを取り、ヴァンス役にガブリエル・バッソ、母親役にはエイミー・アダムス、祖母をグレン・クローズ、姉をヘイリー・ベネット等、演技派揃い。
オハイオの美しい大自然とは対照的な、プアホワイトの希望の無い日常が事細かに描かれる。
エイミー・アダムスは、小太りで髪を振り乱したジャンキーの母親を見事に演じ切り、アル中でチェーンスモーカーの祖母役のグレン・クローズは、エンドロールで出てくる実際の祖母と瓜二つである。この祖母が、荒んだ生活ながらもカトリシズムの信奉者であり、ヴァンスに一筋の光を与え、人生を後押しする。
映画は、政治家になる前のヴァンスの回顧録だが、今年のトランプ再選後、副大統領にまで上り詰めたヴァンスは、民主党の福祉政策には極めて批判的である。「神は自ら助くるものを助く」がモットーで、苦労の連続の中で、適切でない福祉によって堕落し、自助努力を忘れた多くの人々を見てきているのだ。ヴァンスは福祉よりも、海外に仕事を奪われて寂れた工業地帯の復興を説く。
ところで、ゼレンスキーとトランプの会談では、小国ウクライナの悲哀をまざまざと見せつけられた。
トランプとしては、目下の最大の敵、中国の封じ込めが念頭にあり、中国とロシアの離間を計らなければならない。どこまでもウクライナに肩入れして、ロシアを中国側に追いやるわけにもいかないのだ。
政治のリアリズムで、ウクライナのNATO加盟や、失った東部の領土返還も望みは薄い。