良書であるため、ご紹介

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『人を殺すとはどういうことか―長期LB級刑務所・殺人犯の告白』 美達大和 新潮文庫

自らも二件の殺人事件の実行犯として長期刑務所に収監され、現在も服役中の殺人犯の獄中手記。
その特異な生い立ちから始まり、事件に至った経緯、服役中の改心と、同房の犯罪者たちをつぶさに観察したリアルな犯罪録。
著者は暴力金融を生業とする在日韓国人の父親の元、異常な家庭環境で生育し、20代で最初の殺人事件を起こす。2件目の事件で逮捕されるが、下獄時の知能検査で(奇跡的な)高い数値をマークしたほど頭脳明晰で、極めて論理的な思考と的確な文章表現力を持っている。そして生来の探究心から自分と同じ境遇にある囚人達と対話し、彼らが弁護士や裁判官、被害者遺族には見せない本音の部分をインサイダーとしてまとめあげたのが本書である。
著者は対話を進める中で時に(悔悟の念が生じた自分と同じように)反省を促したりもするが、大半の犯罪者は被害者や遺族に想いを寄せることはほとんど無い。それどころか自分が起こしたおぞましい事件を嬉々として語り、被害者に責任転嫁する者も多い。この点について著者は累犯者に共通する特徴として利己心の強烈さや共感性の欠落をあげている。
それでも一定期間おとなしく勤め上げ、反省の欠片もないのに命日会に出席してポイントを稼ぎ、当局のさじ加減で仮釈放が得られれば社会復帰するのである。
表題は「人を殺すとはどういうことか」だが、このテーマについて掘り下げられているのではなく、「こういう連中が平然と人を殺す」といった内容である。
著者は現在の国の更正プログラムは累犯者には何の効力もなく、さりとてどうしたら矯正出来るかと思索を始めてもけして完結しない…つまりは代案も無い、と何とも救いのない本音を語っている。
再犯確実な累犯者が矯正もされず出獄してくる現状は、あまりに社会的リスクが大きいのである。