名著であるため、ご紹介

名著であるため、ご紹介
『指導者の精神構造』小田晋著 生産性出版

印象深いキャラクターでマスコミにも登場する医学博士、小田晋が古今東西の政治指導者、企業家を精神分析医の視点から解説する。
四半世紀を越える精神科医としての実績で積み上げられた膨大なデータをもとに、心理学的なアプローチで指導者を分析し、また、それぞれの指導者の気質を体系的に分類して精神病理学としての解説も加えている。小田によれば、それぞれのパーソナリティが時代性や人間関係、わずかばかりの運に助けられたときにリーダーシップを発揮して世に出ることになる。
天下人となった織田信長、日本的な資本主義を確立した渋沢栄一、東芝を再建した土光敏夫など、その時代のトップリーダーたちはなぜリーダーたりえたのか。常人とは精神構造に決定的な違いがあるのだろうかという点を掘り下げる。中でも興味深いのは豊田佐吉のような天才的な発明型指導者は、統合失調症のような狂気を含んでいる場合があるという。むしろ社会適合しにくい面があるということだが、そういった人格が自然淘汰されずに一定程度生まれ続けるのは、やはり人類全体にとっての必要性からだとする。
本書には他にも大久保利通、スティーブ・ジョブス、小倉昌男、松下幸之助、本田宗一郎といった面々が登場する。
この本の中で小田は三つの事柄をテーマにしている。
負け組意識に陥ったひとにたいして「だれもが指導者たりえる」ということに気付いてもらうこと。そして「指導者になったらどうあるべきか(ノーブレス・オブリージュ)」の問題。さらには「どういう指導者が危険なのか」ということである。
学者の視点から人物のタイプを冷徹に分類するだけではなく、読者の社会生活の一助になるようなテーマに言及し、少しでも社会を善導しようとするところが、この筆者らしいところであろう。
別の機会に菅直人や鳩山由紀夫の精神病理も指摘していただきたいところだ。