実物フライトジャケット一考

実物フライトジャケット一考
当店にお越しいただいているお役様は良くご存知のように、店内には1950〜60年代のナイロンものを中心に当時の実物フライトジャケットを30着ほど陳列しています。
これらはあくまで参考品で、レプリカ商品をご購入いただく際の比較参考資料として見ていただいているものです。デッドストックに近いものもあれば、かなり使い込まれて払い下げられたものもあります。たまに実物の販売はしないのかとのお問い合わせをいただく事がありますが、今のところ考えていません。理由は明確で、実際の着用にあたっては問題が多いからです。
まず誰でもが思い当たるのはジッパーの故障で、当時のタロンやスコービル、コンマーといったジッパーは精度が低く、耐久性がありません。さらに何十年も経っていれば金属が酸化したり、テープが硬化していたりします。未使用のデッドストックの状態であっても使い始めるとあっけなく壊れたりします。着用時に故障しますから、運が悪いとスライダーが途中で止まって上げ下げが出来ず、脱ぐのも困難な事になります。交換用のパーツもオリジナルの入手は難しく、交換作業も大変な手間を要します。
N-2、N-3系でコヨーテのファーを衿回りに使用したものでは、劣化による毛の抜け落ちがあります。劣化が進むと着用のたびにバラバラ抜けるようになります。車の中や屋内では毛が落ちるので気を使わなければなりません。
それからインナーにウールパイル等を使用しているものは、ウールが縮縦を起こして縮んでしまっているものがたくさんあります。ウールというのは、もまれるだけで繊維同士が絡み合って縮んでいくものなのです。インナー素材が縮んで、結果的に表地と裏地が余ってしまい、妙な棚皺が出ていたりします。これを修復するのは困難です。
スナップボタンもカチカチに固着していて外した拍子に生地ごと抜けることがあります。
この他にもリブニットなど、傷みやすくメンテナンスが大変な箇所は他にもあります。
ざっと思いつくだけでも不具合の出そうなところが沢山あり、これらを販売したショップがアフターフォローすることは不可能です。
実物を販売するミリタリーショップでは現状販売が基本で、まず修理対応をしていません。取引成立すればそれっきりということですが、コレクターズアイテムとしての扱いですから当然と言えば当然なのです。コレクションするだけで着用を前提にしていないお客さんもいますから。
しかし衣料品は普通に着用出来てこそ意味があるのだという考えに立てば、当時モノを商品として扱うのは難しくなります。
当店ではミリタリーウエアもカジュアル衣料の1アイテムとして捉えていますので、今後もレプリカ商品に力を入れていきたいと思っています。