クロッシング

クロッシング
2008年に製作された韓国映画だが、日本においては配給元となった北朝鮮系と言われるシネカノンが封殺し、なかなか公開に至らなかったいわく付きの映画(ちなみにシネカノンは日本映画界の売国奴、井筒和幸の「パッチギ!」のプロデュースをした会社で現在は倒産している)。
物語りは、北朝鮮の炭鉱で働く元サッカー選手の父、妊娠中の妻、11歳の息子を中心に展開する。妊娠中の妻が肺結核で倒れ、薬を入手するために中国への脱北を決意する父。決死の覚悟で国境を越え、やっとの思いでたどり着いた中国で薬を買うために森林伐採の仕事に就く。しかし、不法労働の現場が発覚、無一文で公安に追われる身となり韓国へ亡命。その頃、北朝鮮で夫の帰りを待ちわびていた妻がひっそりと息を引き取っていた。孤児になった息子は父との再会を信じ、母の形見の指輪を懐に国境を越えてモンゴルへ入国するが…。
韓国映画であるから反共プロパガンダの側面もあろう。またキリスト教を絡めて描いているのも韓国らしい。しかし、そこに描かれるこの世の地獄はそれほど誇張されたものではあるまい。軍事独裁と経済政策の大失敗による貧困と饑餓、特に食料が底をつき、かわいがっていた愛犬の肉が食卓に並ぶシーンは、北朝鮮の残酷な現実をよく現しているのではないか。
韓国映画といえば、韓流ブームに乗った低質でくだらない作品が巷にあふれているが、この映画は別格。北朝鮮の悲惨な現状と脱北者問題を正面から取り上げた力作です。

(追記)
かつて朝鮮総連や大手マスコミは北朝鮮を「地上の楽園」として帰還事業を展開した。その実態が知れ渡る80年代まで帰還事業は継続され、朝鮮人のみならず、婚姻関係にあった日本人妻もこの『楽園』に出国していった。そして多くは帰って来れないでいる。
映画を観てふと思い出したが、25年ほど前、知人で、北朝鮮に渡った日本人妻の帰国運動というのを熱心にやっている人がいた。新左翼の男だったが、私には活動の趣旨がよくわからず、自己理由で出国したんだから、そんなの放っておけば良いじゃないかというぐらいに思っていた。いまはちょっと当時の不明を恥じている。