名著であるため、ご紹介

名著であるため、ご紹介
『もしもノンフィクション作家がお化けに出会ったら』工藤美代子著 メディアファクトリー

工藤美代子さんといえば、私にとっては昭和の偉人たちの伝記作家であり、この人を通じて、笹川良一や岸信介、吉田茂などの思想と行動をより深く理解することができた。
しかし一方でこの人は、自らの体験をもとにした怪談話も刊行している。それもあくまでもノンフィクションライターの姿勢を崩さず、一切脚色することなしに書いているのだ。もちろんそれらは、人一倍感受性が強いというご本人が「見た」「聞こえた」という、主観に基づいたもので、実証できるようなものではない。
私は所謂オカルトやスピリチュアルの類は全く信じていない人間である。そういうのを飯のタネにしている自称「霊能者」なんていう人種は大嫌いだし、コイツら死ねばいいのに!と常々思っているくらいなのだ。
しかし、飾り気のない文章で綴られているこの人の体験記には、背筋をゾクッとさせられる怖さがある。不思議な現象の裏には哀しいストーリーがあり、それがまた胸にささり、怖さを増幅させる。救いといえば、この人がそれらの事象を淡々と受け止め、取り除こうとか、克服しようとか思わず、折り合いをつけて共生しているということだろうか。
海外での話や、文壇におけるエピソードなども出てくるので、エッセーとして読んでも退屈はしない一冊。