良書とはいえませんが…ご紹介

良書とはいえませんが…ご紹介
『熔ける』井川意高著 双葉社

名門企業の御曹司がバカラ賭博で106億円も擦り、そのうち50億円以上を傘下の会社から用途を偽って用立てたとして逮捕され、特別背任として立件された事件。
一時のマスコミ報道の過熱ぶりも相当なものだった。
その事件に至る経緯とその後を、当の本人が綴った書。
かなり客観的に自己分析し、真摯に反省をあらわす一方で、事実無根の報道にはきちんと反証している。
本書を読んでみると、巷間言われているような甘ったれのボンボンとはかなり印象が違う。幼少期から父親のスパルタ教育でトップエリートとして育てられ、大王製紙入社後は本人の懸命な努力もあり、新商品の開発、赤字会社の立て直し等で手腕を発揮している。社内改革にも熱心で、企業経営について一家言持ったビジネスマンである。バクチに嵌り、関連会社から電話一本で何億円も調達出来たのは、オーナー企業であると同時に、それなりの信用があったとも言えるのではないか。本人の弁では背任の意図は無く、現に事件後、井川氏は私財を処分して特別背任罪に問われた55億円を金利も含めて完済している。それでも執行猶予は付かず、懲役4年の実刑が確定したのは、ずいぶん厳しい印象である。マスコミによる過熱報道で必要以上に社会的制裁も受ける羽目になった。
しかし生来論理的で抑制の利いた人間が、勝てるはずの無いギャンブルに嵌ってしまうのは、本人も語っているように病気である。そしてギャンブル施設には、その病人をがっちり取り込むノウハウがあるのだ。
金額の多寡は別にして、日本を蝕むパチンコ依存症も同じである。