名著であるため、ご紹介

名著であるため、ご紹介
『永遠の0』 百田尚樹著 講談社文庫

読了した後にじわっと余韻が残るような作品というのはそうそう無い。
遅まきながらこのベストセラーを文庫本で読んでみた率直な感想。
0(ゼロ)とは海軍零式戦闘機のこと。物語りは、この零戦の搭乗員として終戦直前に特攻で戦死した祖父のことを調べ始めた孫の姉弟を軸に進んでいく。
かつての祖父の戦友達を訪ね歩くたびに、全く顔も知らぬ祖父が、少しずつ現実的な存在となってくる。前線で、仲間に誹られながらも、「絶対に生きて帰る」と公言して憚らなかった祖父が、なぜ生還する可能性の無い特攻要員となったのか。
フィクションとはいえ史実に沿った内容で、登場人物ひとりひとりの視点で戦中、戦後の日本を巧みに語らせている。
戦後民主主義の中で失われたかつての日本人の価値観、自己犠牲の精神が胸を衝く。
本書では登場人物の言葉で当時の官僚機構の理不尽さに徹底批判を加えている。又、現代において神風特攻隊を「テロリスト」と切り捨てる偽善的な新聞記者(アサヒ?)を登場させる事で、戦時中は戦意高揚記事を書き、戦後一転して平和主義を唱えて世論をミスリードし続けるマスコミ批判も盛り込まれている。
日本人の心の琴線に触れる、お勧めの名著。
年末にはこれを原作にした映画も公開されるが、映像化したものがどんな仕上がりになるのか楽しみでもある。