『路地の子』上原善広著 新潮社
著者の言う「路地」とは、著者自身が生まれ育った大阪の同和地区(特殊部落)を指す。
このノンフィクションで描かれるのは、戦後の部落に生まれ、義務教育も半ばで屠畜業に就いた著者の父・上原龍造。読み書きも不自由な龍造は、激しい気性と屠畜の腕一本でのし上がり、同和対策措置法によって流れ込むカネをつかみ、地区の顔役として商売を広げていく。
善悪など考えることもなく、利用できるものはすべて利用する。部落解放同盟(社会党系)の独占利権に食い込むために、全解連(共産党)とも手を組み、通産省への陳情には右翼の威光も借りる。思想性など欠片もなく、儲かるか、儲からないか、ただそれがあるのみである。やがて同和団体の代表にもなり、駆け足で大手の屠畜業者に成り上がる。後に「食肉の帝王」として牛肉偽装事件で世間を騒がせた男とも、旧知の仲である。
莫大な利権が転がり込み、税金天国だった部落は潤って生活は向上したが、逆差別との批判も浴びる中、時限立法だった同和対策措置法は平成14年に失効した。
著者は父の龍造に反発し、一族郎党で営む食肉業からも距離を置き、一人大学を出てノンフィクション作家となった。
差別と貧困、教育程度の低さ、濃密な人間関係、利権をめぐる激しい闘争、政党や新興宗教との関わりなど、外からは窺えない近代部落のありようが、この本には地名もそのままに載っている。
著者がその内部の人間でなければ、無事刊行出来ただろうかと、ふと思ってしまう。
とにかく同和が絡むと、言論出版界は過剰に自己規制しがちなのだ。
そういえば、あの森友学園で問題とされた売却用地も、要は同和がらみの処分地で、元々瑕疵があるから低価格だったにすぎない。
一部の(まともな)ジャーナリストはちゃんと報じていたが、野党は知っていながら、まるで不当に安売りされたかのような取り上げ方をして、倒閣運動に利用していた。