ATC185

ATC185
長く店内の一角を占めるこのバギーは、元はといえば単なるお飾りではなく、マジに通勤に使うつもりで購入したものであった。
北陸の方にあった車両だが、実際に小型特殊のナンバープレートが付いており、自治体に届け出るだけで当地のナンバープレートに付け替え出来たのだ。
小ぶりな車体には充分な185ccのエンジンで、吹け上がりもバッチリだった。
簡単な整備をして公道に乗り出したが、これが想像を絶するような代物で、とてもじゃないが路上で乗れたものではなかった。デフが無いので後ろの両輪が同時に廻り、グリップが良すぎるバルーンタイヤがガッチリとアスファルトに食い込み、コーナーをまわる時など命がけであった。ウインカーがないので手信号を出して思い切ってハンドルを切り、力技で曲がりきらねばならない。また走行中のタイヤの摩擦音がビュンビュンと凄まじく、エンジン音よりも大きいくらいであった。
これじゃ命がいくつあっても足りないと感じ、あっさりと公道走行を諦めた。
やはりバギーはバギーである。自宅の西方にある未舗装の農道などを走ってみるとそれなりに楽しめたが、車両も身体も埃だらけになるのがイヤで続かなかった。
以来ずっと店内に留まる事になってしまった。
どうせディスプレイならと、暇を見ては所々改造してチョッパー仕立てとした。
大きなプラスチックのフェンダーを取り外し、メッキのヘッドライトとロボハンを取り付け、シートを本革で張り替え、トライク風の木製の荷台も取り付けた。
こうして、ますます走行に向かないスタイルに変身してしまったのだ。
小型特殊のナンバープレートはずっと付けたままだったが、考えたら毎年課税されているのももったいないので今回返納する事とした。
余程のことがなければもう公道に乗り出す事は無いだろう。
…たぶん。