名著であるため、ご紹介

名著であるため、ご紹介
『ザ・ゴッドファーザー レガシー』ハーラン・リーボ著 ソニーマガジンズ

この400ページのハードカバーは、世界的名作「ゴッドファーザー」の膨大な製作記録を纏めたメイキングストーリーである。
大阪出張のおりに本の街でたまたま見つけ、少々重かったが、買って帰りの電車のなかで読み耽った。
日本でも大ヒットした映画「ゴッドファーザー」は、3部作すべてが何度もTV放映までされているので、知らない方の方が少ないに違いない。しかしDVD化されたディレクターズカット版ですら、編集段階でカットされたシーンがこれほど多いとは、本書を手に取るまで思いもしなかった。ただでさえ日本人にはピンとこないイタリア系アメリカ人の生活習慣、宗教観、家族愛がテーマの物語りである。時間的な都合で大幅にカットされた部分を日本人が想像力でカバーするのは難しい。私自身、映画を観ただけでは全く意味が理解出来ず、首を傾げるような部分が多かったが、この本によって多くの疑問があきらかになった。同時にこの本には一般公開されていないたくさんの写真や、採用されなかったアイデアなど企画に関する資料も掲載されており、そちらも充分に楽しめる。撮影中の裏話や、出演俳優の意外な素顔も明かされ興味深い。
一作目についてはマリオ・プーゾの原作本(山本光伸が和訳)が先にあって、それにそって製作されているので、それほどややこしいことはない。もちろん多くのプロットが省かれ、おもに三男のマイケルに焦点をあてて映画はつくられているが、原作はかならずしもそうではない。ついでにこの原作本を読めばより深く個々の登場人物を理解出来て、さらに楽しめること請け合いである。
ベストセラーの映画化ということでキャスティングには多くの俳優が殺到し、スクリーンテストの結果、採用されなかった俳優の中には後世のトップスターもいる。例外的に素人採用されたのが、ドン・ヴィトーの用心棒ルカ・ブラッツィ(レニー・モンタナ)で、この巨漢は、マフィア映画の内容を監視しにきた「本物の」マフィアの用心棒で、スタジオで一目惚れした監督のF・コッポラによって出演することになった。
2作目以降はコッポラとプーゾの共同脚本となり、パート2では二世代に渡るストーリーが1作にまとめられているが、1作目の出演俳優との交渉がうまくいかず、脚本自体を大幅に修正して1作目にいなかった登場人物が重要なパートを演じたり、3時間20分の枠に収める為に大胆過ぎる編集をして、重要なシーンが抜け、映画を何度観ても意味がわからないところがある。たとえばコルレオーネの旧友フランキー(マイケル・V・ガッツォ)が組織を裏切るきっかけとなった殺害未遂事件の背後に敵のユダヤ系ギャング、ハイマン・ロスが控えていることを示唆するシーン。また、誤解したフランキーは、FBIに協力して公聴会に出席するのだが、故郷にいるはずの自身の兄がコルレオーネファミリーと一緒に公聴会に来ているのをみて翻意し、自害する。これなど兄の身を心配しての行動としか理解出来ないが、実は兄の元に二人の娘を養女に出しており、「沈黙の掟」を破った瞬間に兄が掟に習い自分の娘を殺害することを恐れた為の行動なのだが、娘との関係がすっぽりカットされているから理解のしようがない。ちなみにこの本の中で、ハイマン・ロス役で出演した高名な演技指導者、リー・ストラスバーグは、4時間半ないしは5時間の映画にすれば完璧だと言っている。
つづくパート3も大作であるが、やはり出演俳優との交渉が難航し、ストーリーも二転三転したようだ。
トム・ヘイゲン役のロバート・デュバルが出演しなかったのは痛かった。金銭的に折り合わなかったらしいが、この映画でスターになったようなものなんだから、ゴチャゴチャ言わずに出れば良かったのにと思う。アンディ・ガルシアが演じたマイケルの後継役には、当初ニコラス・ケイジが名乗りをあげていたらしい。コッポラは自分の妹のタリア・シャイアと娘のソフィア・コッポラを出演させているが、甥にあたるケイジは採用されなかった。
最終的には実際にあったバチカンの腐敗や政界の汚職事件もテーマに盛り込んで、重厚な作品に仕上がっている。個人的には敵役のドンを演じたマカロニ・ウエスタンのスター、イーライ・ウォラックの達者な演技がとても良かった。

ゴッドファーザー3部作は、衣装やメイクアップ、舞台セット、音楽などでも高い評価を得ているが、当然であろう。
わずか数秒のシーンの為に、登場人物の衣装やメイクのみならず街のワンブロックを造り変えたりすることもやってのけるのだから。CG全盛の今とは労力が違う。
監督のコッポラは妥協を知らず、つき従うカメラマン、デザイナー、音響担当者、もちろん俳優達も同様である。ものを創るひとたちとは本来こういうものだ。
出来ればカットされたシーンも再編集して拡大版を作ってもらいたいぐらいである。
見事な『総合芸術』の製作に関わった多くの人達は、その後も業界の第一人者として活躍をつづけているようである。