名著であるため、ご紹介

名著であるため、ご紹介
『カポネ』佐藤賢一著 文春文庫

言わずと知れた禁酒法時代のギャングのボスと、その摘発に血道をあげるアンタッチャブル(エリオット・ネス)の物語。
ストーリーは史実をなぞっているが、血なまぐさいシーンの描写はほとんど無く、殺人場面も登場人物たちの伝聞のような表現が使われる。
単純なギャング対捜査官の物語ではなく、カポネという陽気で目端の利く人物が、むしろ時代の要求によって登場し、一定の役割を果たしたかのような描かれ方になっている。対して捜査官のエリオット・ネスを、権力志向の強い腹黒い人物として描いている。そしてカポネ収監後の、それぞれの余生にかなりの頁が割かれている。
脳梅毒に侵され、出所後は痴呆となって惨めな最期を迎えるアル・カポネ。それでも感謝の念を忘れない人々がいる。
皮肉にも禁酒法時代からの深酒がたたり、ついにはアル中となって命を落としたエリオット・ネス。死後に出版された「アンタッチャブル」はベストセラーになり、負債の補填に充てられた。TVや映画の原作にもなったが、自己宣伝色の強い内容であったようだ。
モノクロTVドラマの「アンタッチャブル」は観たことが無いが、ケビン・コスナー主演の映画は娯楽作品としては良く出来ていた。
著者は西洋の伝記ものを沢山執筆しているので、他の作品も読んでみたい。