キャタピラー

キャタピラー
先日亡くなった若松孝二監督の代表作。
近所のレンタル屋の日本映画コーナーを探すとすぐに見つかった。
題名のキャタピラーは戦車のキャタピラーのことかと勘違いしていたが、四肢をもがれた主人公の「芋虫」状態のことをあらわしていたようだ。
もうのっけから反戦主義者、若松孝二の世界が炸裂する。中国で欲望の趣くままに女性を銃剣で虐殺した主人公は、戦線で手足を無くし、大やけどを負った状態で復員する。三つの勲章を授与され、村人からは生ける軍神とあがめられるが、妻のシゲ子は現実を受け入れられない。もともと暴君であった夫に献身的につかえながらも、内心激しく葛藤する。夫も戦線でのトラウマをかかえ、精神的に病み始めている。息苦しいような夫婦二人きり日々のくりかえし。やがて大本営発表とは裏腹に戦況は悪化し、広島、長崎に原爆が投下され、終戦となる。終戦の詔勅を聞いたシゲ子は心からの解放感で晴れやかな笑顔を見せ、一方夫は家から這い出し、ため池で入水自殺する。
主人公の日本軍人がこれ以上無いくらいに醜く描かれ、その傍らには常にご真影がある。まるで中韓のプロパガンダ映画のようである。加えて夫が出征前から暴力的であったことから、見方によってはジェンダーフリーの要素も加えられているのかもしれない。ラストに流れる元 ちとせの「死んだ女の子」という反戦歌が不気味な上、被爆死をテーマにしているのが意味不明。原爆投下まで一括りにして日本軍の責任だとでも言いたいのだろうか。
戦争の最も残酷で醜い部分のみを切り取って、極端な形でデフォルメした若松孝二さんらしい作品であった。