狼たちの処刑台

狼たちの処刑台
昔、チャールズ・ブロンソン主演でヒットした「狼よさらば」という復讐をテーマにしたシリーズがあったが、たぶんそれに引っかけて邦題を付けたのだろう。
原題は「HARRY BROWN」でマイケル・ケイン演じる主人公の名前なのだが、本作は英国が舞台の復讐劇である。
年金暮らしのハリーは、どこにでもいる地味で穏やかな老人。妻は末期状態で入院している。親友とチェスをする事が唯一の楽しみである。しかしハリー達が住むアパート周辺の治安は悪化の一途で、夜間に出歩く事も困難になる。ある日妻の入院する病院から危篤の知らせを受けたが、危険地域のトンネルを避けて遠回りした為に死に目に会うこともかなわなかった。さらには親友が地元のチンピラにトンネル内で惨殺され、自らも強盗に遭遇するにおよんで、かつて海兵隊としてIRAと戦った戦争の英雄は一人復讐を誓う。拳銃を手に入れ、次々に犯罪者達を血祭りに上げていくが、スーパーヒーローという感じではなく、息も絶え絶え、ヨロヨロしながら敵を追いつめていく。実年齢で80歳近いマイケル・ケインだから、無敵のアクション映画になってしまったら逆にリアリティが無くなるだろう。しかし実際に従軍経験もあるマイケル・ケインの拳銃さばきは落ちついていて堂に入ったものだ。名も知らぬジャンキー役の俳優のリアルな演技も光る(本当の中毒者かもしれないが)。映画で表現された英国社会のすさまじい荒廃ぶりは、ある程度実態を反映したものと思われる。
クリント・イーストウッドのグラン・トリノに続く、英国版のロートル映画の傑作である。