名著であるため、ご紹介

名著であるため、ご紹介
『海賊とよばれた男』 百田直樹著 講談社

著者の百田直樹氏は、この主人公のモデルとなった出光興産・出光佐三の生涯を知り、驚愕すると同時に震えが止まらなくなったという。
そして、この素晴らしい男を一人でも多くの日本人に知ってもらいたいという一念で筆を取った。
戦前、一石油商として身を起こし、苦労の末に満州を拠点に大きな販売網を築き上げた主人公。それらを終戦とともにすべて失ったときには、すでに還暦を迎えようとしていた。焦土と化した祖国に立ち、絶望に打ちひしがれながらも、再起を誓う。終戦時仕事が無いにもかかわらず「社員は家族」の信念のもと、一人の従業員も馘首せずに私財を処分して給与を賄った。戦後の統制経済下では官僚や石油メジャーと戦い、満身創痍になりながらも経済封鎖中のイランにタンカーを差し向け、見事に原油輸入に成功する。その後も外資に徹底的に抗い、苦労を重ねながらも民族資本を貫いて国内最大の製油所を建設し、80歳を過ぎて現役を退くまでの道程はまさに不撓不屈。ビジネスマンの枠を超えた傑出した人間性が描かれる。
上下刊で700頁を越える長編はほぼ史実に沿っているらしいが、脚色として「永遠の0」の主人公、宮部が登場するワンシーンも挿入されている。
ところで私の実家は祖父の代から燃料商をしていて、昭和50年代まで出光興産の末端の販売店だった。子供の頃、トレードマークのアポロの横顔を模写していた記憶がある。家には出光佐三の本が何冊かあったが、全く興味が無かったので一冊も読んでいなかった。