トゥルー・グリット

トゥルー・グリット
DVD化されたばかリのものをレンタルしたが、これは劇場で観るべきであった。
ジョン・ウェインの正統派西部劇(マカロニではないという意味で)の傑作、『勇気ある追跡』をコーエン兄弟がスピルバーグと組んでリメイクした作品。
単なる焼き直しにあらず、40年前の前作のイメージをけして損なわず、ストーリーを膨らませ、登場人物を丹念に描き込んだ素晴らしい作品であった。
無法者に父を殺害された14歳の少女マティは復讐を誓い、先住民居留地に逃げ込んだ男を追う為に酔いどれの保安官コグバーン(本作ではジェフ・ブリッジス)を雇う。目的を同じくするテキサスレンジャーのビーフ(マット・デイモン)も一行に加わり、無法者追跡の長い旅が始まる。
ジェフ・ブリッジスは、アル中だがタフで心根のやさしい隻眼の保安官を好演している。『クレイジー・ハート』で演じたカントリーシンガー役に続いて役者としての力量を見せつける。マティ役の新人女優ヘイリー・スタインフェルドは、父親のコートを羽織り、形見のコルト・ドラグーンを手に復讐の旅に出る少女を堂々と演じている。この映画はすべてこの毅然とした少女の視点から描かれている。脇にまわったマット・デイモンもキャラクターが際立っていたが、悪役陣で先住民のラッキー・ネッドを演じたバリー・ペッパーが素晴らしく、特殊メイクで小汚いネズミの様な印象の男になりきっていた。
映画を通じて1880年頃の西部の町並みや冬枯れの山河、そこで生きる人々の生活を叙情的に感じる事が出来る。
そして前作と異なり、クライマックスの馬上の決闘シーンのあとも物語りは続き、数十年後のマティとコグバーンのエピソードが描かれてエンドロールとなる。ラストに流れるゴスペル/カントリーの名曲も心に浸みる。
これはシンプルな西部劇のなかに様々な要素を盛り込んだ質の高い名作である。
この映画を観て何も感じ取れないようなら、感性が腐っていると断言しても良いぐらいである。
一度では味わい尽くせないので、しばらくしたらもう一度じっくり観てみたい。