良書であるため、ご紹介

良書であるため、ご紹介
『弁護士、闘う』 宇都宮健児著 岩波書店

今回の都知事選で、極左からやや左まで、熱い支持を集めるこの元日弁連会長がどういう出自なのか知りたかったので手に取った自伝。
半農半漁の貧しい家庭に生まれながら、生来の頭の良さから進学を志し、東大に現役合格、司法試験も一回目で合格という秀才。米のごはんを食べた事が無かったという幼少期の貧困体験は、この人の思想の核となっており、60年代の大学紛争時代にその考えがさらに強化されたようだ。
社会派の弁護士として、常に弱者に寄り添う姿勢は一貫して変わらない。
カルトや投資詐欺、マルチまがい商法などにも精通し、法改正のきっかけとなるような実績を残している。志高く、清廉で、不撓不屈の精神は神々しくもある。(自称)市民活動家の菅直人など比較にもならないほどリッパな人だと思う。
今回の都知事選でも、社会格差の解消を強く訴えておられる。
しかしながら、これだけ豊かになった日本において、貧困をあくまで社会構造の問題ととらえるのはどんなものだろう。
実際に戦後の貧困から身を起こしたこの人ならなおさら、時代背景が全く違うとお思いにならないのだろうか。
あたりまえだが経済的弱者がすべて、善意の犠牲者というわけではない。
この本には(不幸にして)悪徳業者に引っかかった多重債務者がたびたび登場するが、自助努力をせず、安易に金を借りた怠惰な債務者だって相当数いるにちがいないのだ。
マルチの被害が拡大するのも、本人の未熟さと、欲ボケのせいでもある。
いくら法整備が進んでも、取り締まるのにも限界があり、構造的問題をとことん解消しようと思ったら、それこそ資本主義を否定するしかなくなってしまう。
在日外国人の権利拡大にも熱心だが、日本に住みついた外国人の事情を酌んで、日本人が住みにくい日本になってしまってはたまったものではない。日本人が入り込めないような外国人エリアが日本にあるのをご存知なのだろうか。
どこまでも性善説に立った『弱者の味方』が、巨大な行政の長になったりしたら、かえって危険である。
この人は、政治家などにはならず、このまま弁護士稼業を続けるべきであると思った次第。